二枚貝の殻の成長と形づくり:理論形態学的アプローチ
生形貴男(静岡大学・理・生物地球環境科学)
二枚貝の殻には,外形の他に,表面彫刻,靱帯,歯,成長線,貝殻微細構造など,様々なオーダーの形質がみられる.そして,それらの多くが幾何学的な規則正しさを有している.こうした幾何学的規則性は,二枚貝の殻にみられる形の形成やパターンの生成を理解するための入り口の一つである.この入り口の扉を開ける鍵として,貝殻の成長様式やパターンの生成過程を近似的に表した理論形態モデルがある.二枚貝の理論形態モデルのうち,殻全体の巻き方をあらわすモデルは,二枚の殻の開閉機能などの機能形態的解析にも応用することができる.一方,二枚貝の殻表面にみられる多彩な装飾は,拡散反応系などのパターン生成機構を理論的に研究する上で興味深い対象である.また,貝殻を構成する結晶の成長をシミュレートすることによって,二枚貝の貝殻微細構造を模擬的に再現することができる.適度な多様性とある種の単純さとを合わせ持った二枚貝の殻形態は,硬組織の形づくりの研究に恰好の対象であるといえよう.
Ubukata, T.: On growth and forms of bivalve
shells: a theoretical morphological approach