カワニナ類の分子生物地理学的研究
     吾妻健(高知医科大・医)°・石上祐子(高知医科大・医)・石上盛敏(高知医科大・医)・Sung Jong Hong(韓国中央大学・医)・浦部美佐子(福岡大・教育)

   高知県、愛媛県、京都市、阪南市、静岡県にて採集したSemisulcopira libertina, S.reiniana, S. habei, S. nakasekoae、並びに韓国Chollanam-do、Young-Am-gunにて採集したS. tegulataの野生集団についてミトコンドリアDNAのCO1領域の塩基配列(612塩基対)を調べた。その結果、塩基配列に高度の多型が存在することが明らかになった。特にS.libertinaでは、7つのハプロタイプに、またS.reinianaでは6つのハプロタイプに分かれた。一方、韓国のカワニナは多型の程度は比較的低く3つのハプロタイプに分かれた。近隣結合法(NJ)による系統樹解析を行ったところ、まず、地理的距離は類縁関係を反映せず、同一集団に属した個体間の遺伝的距離が遠距離集団間の個体どうしの遺伝的距離よりもかならずしも近くない場合もあることが分かった。また、異なった種の個体が同一のクラスターに包含されることも観察され、今回調べた5種は互いにあまり分化しておらず、地域によっては交雑をしている可能性があるものと推測された。

T. Agatsuma , Phylogeographic studies on species of the Semisulcospira.