カワニナ種群の遺伝的変異と形態変異
神谷敏詩(東北大学理学研究科)°・島本昌憲(東北大学総合学術博物館)

本研究では,日本列島に生息するカワニナ属のうち,カワニナ種群に属する3種(Semisulcospira libertinaS. reinianaS. kurodai)について生体酵素アロザイムに基づく遺伝的変異および形態変異を比較検討した。その結果,成貝に顕著な縦肋の見られる個体では,多くの場合遺伝子座Mpiで観察される対立遺伝子のうちBのホモを示すことが判明した。しかし,縦肋の見られない個体についてもBのホモとなるものが数多く見られるなど,種間で成貝の形態変異にオーバーラップが見られ,殻形態のみから種を同定することは困難である。したがって,遺伝子座Mpiに見られる対立遺伝子の種類に基づいて種の区分を行い,それぞれの種の遺伝的変異および遺伝距離を検討し,系統学的位置づけを考察した。さらに,遺伝的に区別された各種の地理的分布から,過去の日本列島における各種の分散過程についても考察を行った。

Kamiya, S. and Shimamoto, M.: Genetic and morphological variation in the Semisulcospira libertina species group.