ミトコンドリアDNAの塩基配列からみたミミガイ科巻貝の系統関係
毛利友紀゜・小澤智生(名古屋大学・環境・地球惑星)

ミミガイ科を代表するHaliotis属は、世界中の温帯・熱帯域の岩礁や珊瑚礁に生息しており、約15亜属70種類が知られている。岩礁という高エネルギー環境に生息するためにHaliotis属の化石は残りにくく、稀に発見される化石も保存状態が良くないものが多い。本属の最古の化石は、カリフォルニアの上部白亜系から産出しているが、古第三紀の化石は知られておらず、新第三紀以降の化石も現生種の分布の中心地でわずかに見つかっているにすぎない。そのため、Haliotis属の系統進化については不明な点が多い。そこで本研究では、Haliotis属の系統進化や分散の過程を分子系統学的手法(ミトコンドリアDNAのCO1領域の一部535bp)を用いて推定することを目的とした。
 系統解析の結果、Haliotis属は地理的分布と対応する7つのクレードから構成されることが分かった。それらは、@北アメリカ、日本、ニュージーランドに分布するNordotis亜属、Paua亜属から成る A東南アジアに分布するSanhaliotis亜属から成る Bマアナゴ(Haliotis ovina)の集団から成る Cオーストラリア、南アフリカに分布する種から成る Dミミガイ(Haliotis asinine)から成る ESulculus亜属のトコブシ、フクトコブシから成る F大西洋に分布するEurotis亜属から成るクレードである。このクレードは、従来考えられていた亜属の分類とも調和的である。また、化石産出年代、地理的障壁の形成年代を参照年代として分岐年代を推定した結果、7つのクレード間の分岐は古第三紀の、比較的短時間のうちに起こったことが推定された。今回の結果から、Haliotis属の主要な分岐は新生代の初期にさかのぼり、その系統進化は、テチス海の閉鎖から現在の海陸分布が確立する一連の過程と深く関わっていることが明らかになった。

Mouri, Y. & Ozawa, T.: Molecular phylogeny of the genus Haliotis (Gastropoda: Haliotidae) inferred from mitochondrial DNA sequences.