土佐湾は古くから深海性貝類の産地として知られる。ここを模式産地として多くの新種が記載され、種名に「tosa」を冠するものだけで30種に上る。しかしながら、これらの貝類の採集深度に関する情報は専ら漁業従事者からもたらされたもので、多くは「土佐沖」あるいは「土佐湾」とされるに留まる状況であった。国立科学博物館動物研究部では日本周辺の深海動物相調査を継続して実施している。その一環として、1997年から2000年にわたり中央水産研究所黒潮研究室(高知市)の調査船「こたか丸」によって、土佐湾中央部の水深100m-800mにおいて合計86回のトロール調査を行った。さらに東京大学海洋研究所の調査船「淡青丸」のKT-00-8航海(2000年)、および白鳳丸のHK-02-3航海(2002年)による水深6000mまでのトロール調査で採集された標本を検討した結果、土佐湾の漸深海−深海性貝類の垂直分布について詳しいデータが得られた。ここではそのうち腹足類について報告する。
各種類の垂直分布は比較的狭く、凡そ300mと800mで組成が大きく入れ代わる傾向が認められた。しかしながら、一部これらの深度帯に跨る幅広い垂直分布を示す種類があった。この場合、複数の形態的に極めて類似した種類が混同されている可能性があるもの(ミソノワタゾコシロガサ、キセワタの1種など)と、深度によって形態に顕著な違いが現われるもの(トゲエビス、サオトメヒタチオビ、Turbonilla
subcylindrica など)があった。後者の中には垂直分布と形態に不連続が認められる場合もあり、深度による種分化の可能性が示唆される。
Hasegawa, K.: Vertical distributions of bathyal and abyssal gastropods in and off Tosa Bay, central Japan.