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多様性保全委員会

委員会が開催したシンポジウム

1.日本貝類学会創立90周年記念公開シンポジウム「日本の貝類の多様性と保全」

2018年5月26日 日本貝類学会平成30年度大会 (於 東京海洋大学)

  • (1)はじめに ―日本における希少貝類の法的保護の現状―
    岩崎敬二(奈良大学・文学部)
  • (2)招待講演 小笠原諸島の陸産貝類の多様性と保全
    千葉 聡(東北大・東北アジア研究センター、東北大院・生命科学)
  • (3)貝の國 ”琉球” 死生存亡の険難 ―苦境に立つ沖縄の貝類保全―
    久保弘文(沖縄県海洋深層水研究所)
  • (4)東アジアにおけるイシガイ目二枚貝の多様性と保全
    近藤高貴(大阪教育大・名誉教授)
講演要旨(1)はじめに ―日本における希少貝類の法的保護の現状―

岩崎敬二(奈良大学文学部)

環境省が2014年に公表したレッドデータブック(日本の絶滅のおそれのある野生生物)には5685種もの希少生物が掲載されている。貝類は1139種含まれており、維管束植物2155種に次いで多く、動物全体2732種の42%を占める。日本に棲息するとされる約9700種の軟体動物の約12%が絶滅の危機にある(絶滅危惧)か将来その危機に陥る可能性がある(準絶滅危惧)種である。陸産、淡水産、汽水・干潟産の貝類は合わせて約3200種いるとされ、その35%は絶滅危惧種または準絶滅危惧種である。この割合は、両生類(65%)、汽水・淡水産魚類(60%)、爬虫類(57%)、哺乳類(39%)に次いで多い。

2017年度までに環境省が公表したレッドリストには陸産833種、淡水産116種、汽水・干潟産513種、合計1462種の貝類が掲載されており、そのうち絶滅種が19、絶滅危惧種は587、準絶滅危惧種は446とされる。絶滅危惧種の数は九州地方(トカラ列島以南を除く)、沖縄島以南の琉球諸島(大東諸島を含む)、中国地方の順に多いが、九州や中国地方のそれは他地域にも分布するものが多く、特定地域だけに棲息する絶滅危惧種は琉球諸島と小笠原諸島に多い。

希少生物種を保全する法律には絶滅危惧種保存法と文化財保護法(天然記念物制度)がある。前者では、全分類群合わせて260種が国内希少野生動植物種に指定されて何らかの公的保護策がとられているが、貝類では小笠原諸島産陸貝17種と沖縄県産陸貝2種の19種のみ(2017年度末)である。国指定の天然記念物は全体で1102件(2017年度末)あるが、軟体動物では小笠原諸島産貝類59種と富山県のホタルイカ群游海面の合計60件しかない。自然公園法や自然環境保全法の保護地域で希少貝類の棲息地が含まれているものも極めて少ない。法的・公的保護策のさらなる充実が望まれる。

講演要旨(2)小笠原諸島の陸産貝類の多様性と保全

千葉聡・東北大学

小笠原諸島は本土から1000㎞以上離れた太平洋上に形成された島嶼であり、成立後長期に渡る隔離のため、独自の進化を遂げた生物からなる生態系が形成されている。陸産貝類は、その主要な構成メンバーであり、およそ120種の分布が知られている。そしてこれらの90%以上が小笠原固有種である。特にオガサワラヤマキサゴ属、エンザガイ属、カタマイマイ属などは、小笠原で著しい形態の分化を伴う種の多様化を遂げている。生活様式の解析と進化史の推定により、これらの種群の適応放散の過程が明らかになった。特に、カタマイマイ属では、約300万年の間に、樹上性、地上性など4タイプの生活形の分化と、それぞれの生活形に対応した形態の分化が、異なる島、異なる系統で繰り返し生じた。そのため異なる島、地域で、形態的、生態的に同一の種の組み合わせからなる群集が独立に形成された。このような反復適応放散は、オガサワラヤマキサゴ属でも認められた。一方、キビオカチグサ類やテンスジオカモノアラガイ属では、一部の種で顕著な形態分化を生じた以外は、約300万年間、ほとんど形態、生態の分化を伴うことなく、多くの同胞種の分化を生じた。この放散パターンの違いを生じた要因について考察する。

最終氷期以前の小笠原には、人が入植した時代よりも多くの種が分布していたが、約1万年前の温暖化とともに約30%の種が絶滅したと考えられる。この温暖化による集団の縮小、脆弱化は、陸貝に対する明治期の開拓の影響を助長したと考えられる。さらに戦後は外来生物(貝食性ウズムシ類)により強いダメージを受けた。明治期以降少なくとも25%の種が絶滅したと推定される。特にニューギニアヤリガタリクウズムシの捕食により、父島ではほとんどの在来種が絶滅した。その他ネズミ、アリなど多くの外来生物の影響により、危機にさらされる小笠原陸貝の保全の取り組みについても紹介したい。

講演要旨(3)貝の國 ”琉球” 死生存亡の険難 ―苦境に立つ沖縄の貝類保全―

久保弘文(沖縄県海洋深層水研究所)

琉球は“貝の國”である。縄文から平安時代(10~12世紀まで)の長い間を、琉球では貝塚時代と呼び、海での狩猟生活を続けていた。弥生時代に日本では農耕文化が普及したが、琉球には水田の痕跡がなく、各地の貝塚からは夥しい数の貝が出土している。貝塚時代後期には、貝交易が始まり、貝製品の材料となる貝が、琉球から日本本土へ大量に運ばれた。通称“貝の道”と呼ばれ、九州から北海道に至る遺跡から貝製腕輪等の出土が根拠とされている。この後“琉球王国”を中心としたグスク時代を迎え、中国や日本(薩摩)との交易を中心とした高度な文化を開花させた。その最たるものが螺鈿で、琉球王府には螺鈿専門の“貝摺奉行所”が設置され、首里城玉座はヤコウガイ螺鈿が絢爛に施された。琉球は貝の國であり、生活・文化両面で、沖縄の人々の真ん中に貝があった。では、なぜ琉球は貝の國になり得たのか、すなわち、ここには豊穣な貝資源があり、生業を支えるに余りある再生産力を保有していたからである。大戦を経ても、なお、禊ぎとして潮干狩りを楽しむ“浜下り”等の貝文化は残ったが、高度成長を迎える頃、生業を支えた貝への思いは忘去された。

その後、琉球の貝は凄まじい険難の時を迎える。特に干潟の貝は悲惨で、終戦時、1,962haの広大な干潟を有した沖縄島では、現在、その面積は482haに縮小し、およそ4分の3を上回る貝が生き埋めとなった。加えて、陸域開発に伴う赤土等微粒子や経済活動に伴う栄養塩の海域大量流入、1998年以降は大規模なサンゴ白化に見舞われ、サンゴ礁域全体の生態系崩壊まで始まっている。

沖縄には日本の絶滅危惧干潟貝類の約半数の種が生息し、日本での最も重要なホットスポットの一つだが、棲息地の分断と減少傾向が継続し、まさに死生存亡の危機的現況にある。とりわけ、干潟貝類は、その全てが国の近絶滅種の要件に合致する。もはや貝の國 ”琉球”を救う手立ては無いのか? 共に考えて頂くための献言としたい。

講演要旨(4)東アジアにおけるイシガイ目二枚貝の多様性と保全

近藤高貴(大阪教育大学)

イシガイ目二枚貝は,南極を除く全大陸の河川や湖沼等に広く分布している。しかし,幼生が魚に寄生するという特異な生活史を持つため,どの地域においても絶滅が危惧されている。東アジアは北米に次いで種数の多い地域で,イシガイ科226種とカワシンジュガイ科5種が確認された(Zieritz et al.,2017)。外来種を除いた在来種数は228種であった。対象とした17カ国・地域の中では,中国が99種と最も種数が多かった。これは国土が広大なためで,一定面積(104㎢)当たりに換算して比較すると,カンボジアが一番高かった。東南アジア全体のこの値は,種数が多い北米よりも高く,世界で最も種多様性が高い地域であることが明らかになった。日本は東南アジアから離れているにもかかわらず,種多様性は比較的高かった。それは日本固有種が多いためである。最近の分子系統解析によって,これらの固有種の多くが古い起源を持つ古期固有種(遺存固有種ともいう)であることが明らかになった。つまり,東南アジアは種分化の中心地で,そこから周辺へ次々と新しい種が分布を広げて行ったが,島嶼となって大陸から隔離された日本に古い起源を持つ種が新しい種に駆逐されずに現在まで残ったと考えられた。

どこでも開発による生息環境の悪化が,存続を脅かしている最大の要因であった。日本では,タナゴの産卵母貝としての採取や外来種の影響(捕食や宿主の減少)も大きな要因になっている。しかし,保全対策はほとんどなされておらず,わずか4府県でそれぞれ1種のイシガイ目二枚貝が希少野生動植物に指定されているに過ぎずない。国レベルでの保全対策が早急になされることが望まれる。

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