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貝類の本の紹介

カタツムリ ハンドブック

2020年2月10日

カタツムリ ハンドブック
武田晋一・西 浩孝 著(文一総合出版)

2014年7月7日に,福岡県直方市在住のカメラマン・武田晋一氏の訪問を受けた。簡易スタジオを完備した車で日本中のカタツムリを撮影中で,関東から中部地方での取材を終えて白浜に来たのだと言う。車に寝泊まりしながら,この後は四国に渡るとのこと。夜行性のカタツムリを撮影するのに,夜間1人で山間地に入り,カタツムリと対話するのだという。初対面ながら,話が弾んで時間が足らなかった。武田氏については,“水の贈り物”(http://www.takeda-shinichi.com) という氏のホームページを見ていただきたい。そこでは「撮影日記」(2015. 7. 10, 11-17) が綴られており,この本の誕生秘話に接することが出来る。解説を担当した西 浩孝氏との関係もそこに詳しく語られている。本書は新書版だが,カタツムリという生きものをフォーカスしているため,見て読んで実に楽しい。第一に,プロカメラマンが直接採集して,カタツムリの軟体部が貝殻から出ている写真が大半を占める。そして,コンパクトながら実に企画・構成が行き届いている。最初の導入は,カタツムリの解説(どんな生きもの?,体のつくり,生活史,どこのいる?)から始まるが,そこからは本書の新企画「ご当地カタツムリ一覧」(広域種37種,及び沖縄・島嶼~北海道の地域種)が図解されている。似た種類の多いカタツムリの同定は難しいので,分布から種類を調べる方法が最もふさわしいと説いている。まさに,カタツムリは「所変われば品変わる」の通り,“ふるさとの動物”なのである。この新書版では日本産800種全部を図示するのは無理であるが,身近にみられる147種(亜種)を取り上げている。これらは微小種や稀産種以外の全国各地で普通に接することのできる種類ばかりである。まず,日本に約130種いる「フタをもつカタツムリ」から代表種11種を図示・解説している。次に約650種ある「フタをもたないカタツムリ」136種が掲載されている。写真を見ると,ベッコウマイマイ科,オナジマイマイ科,ナンバンマイマイ科では貝殻から透ける外套膜の模様が顕著で,思わぬ発見?があるものである。本種では25編ものコラムが武田・西両氏で綴られていて,示唆に富んだ内容が多い。「黒いカタツムリの謎」(p.79)を読むと,貝殻と軟体部が真っ黒なエゾマイマイ(北海道・狩場山,暑寒別山)をかつて調べたことを思い出した(湊, 1992)。引用文献付きで最近の最前線の研究が随所に紹介されている点も類書にない。カタツムリ大好き人間にとって必読の書である。

引用文献

  • 湊  宏. 1992. 最近の研究ノートから ― 興味ある陸貝のスライド紹介 ― . Venus 51(1-2) : 125.

(紹介者:湊  宏)

出版社ウェブサイト:
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-8130-6/Default.aspx

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