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貝類の本の紹介

奄美群島の生物多様性 ― 研究最前線からの報告 ―

2020年2月10日

奄美群島の生物多様性 ― 研究最前線からの報告 ―
鹿児島大学生物多様性研究会 編(南方新社)

2011(平成23)年6月,小笠原諸島が我が国で4番目の世界自然遺産に指定された。その指定の理由の一つに動植物の固有種の割合が高いこと,特に陸産貝類(カタツムリ)や植物に貴重なものが存在することであった。わが国では,次の世界自然遺産として「奄美・琉球」の指定を目指す流れがある。「奄美・琉球」とは,奄美大島,徳之島,沖縄本島北部(山原),西表島であるが,鹿児島大学生物多様性研究会がその奄美の自然の多様性についてまとめたのが本書である。世界自然遺産候補として現実味を帯びつつあるこの時期に,タイミングの良い出版といえよう。本書の陸上動物の項は特にアリと陸産貝類について詳述しているが,ここではその陸産貝類を取り上げる。陸産貝類は冨山清升氏が第2部第3章で「薩南諸島の陸産貝類」として85ページにわたって執筆している。本書総ページ数393ページの中の実に21.6%を占め,それほど多様性のある陸産貝類の解説である。小笠原諸島では固有種の多さが特徴であるが,「奄美・琉球」でも多くの島嶼があるために,移動性の低い陸産貝類は小笠原諸島に匹敵するほど種多様性が高い。冨山氏は第3章で,1節:陸産貝類の生態的・進化的な特徴,2節:諸島の陸産貝類相の概略,3節:離島の生態系に関する基本的な考え方,4節:鹿児島県の陸産貝類研究の歴史,5節:県のRDB の紹介,6節:種・亜種・変種・変異型,7節:種分化の様式,8節:種内変異から見た島の生物地理学を取り扱った。9節では薩南諸島の各島々の陸産貝類相の解説をしている。この節は宇治群島から与論島までのファウナを示していて,本章では実に興味をそそられる。巻頭カラーでの固有種の写真とあわせて楽しく拝見できる。薩南諸島における陸産貝類を扱ったものではこれまでにない良書であるが,1点だけ訂正しなければならない箇所があるので,ここにそれを指摘しておきたい。p.167図13の「標本写真」小笠原諸島カタマイマイ類4種の中で,M. hiraseiとした図が「コハクアナカタマイマイMandarina tomiyamai Chiba & Davison, 2008」と説明しているが,正しくは「アナカタマイマイMandarina hirasei Pilsbry, 1902」と説明すべきである。冨山(1992)のp.126 の写真259 をそのまま使用したようだ。10節では,冨山氏の専門とする外来種としてのアフリカマイマイの基本生態が詳述されている。

引用文献

  • Chiba, S. & Davison, A. 2008. Anatomical and molecular studies reveal several cryptic species of the endemic genus Mandarina (Pulmonata:Helicoidea) in the Ogasawara Islands. Journal of Molluscan Studies 74:373-382.
  • 冨山清升. 1992. 陸産貝類. In:小笠原自然環境研究会(編著)フィールドガイド小笠原の自然. pp.125-128. 古今書院,東京.

(紹介者:湊  宏)

出版社ウェブサイト:
http://www.nanpou.com/?pid=99850083

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