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貝類の本の紹介

宮崎県のカタツムリ

2020年2月10日

宮崎県のカタツムリ
西 邦雄・西 浩孝 著(黒潮文庫)

西さん親子による待望の書物が刊行された。1982年に西 邦雄氏からは「宮崎県産陸産貝類採集品目録及び分布資料」というタイプ打ちの小冊子をいただいていたが,それを思えば今昔の感がして感慨深く,ご子息である浩孝氏の協力を経てここに完成された出版を喜びたい。かつて宮崎県では黒田(1935)による『宮崎県産貝類目録. In 宮崎県天覧成績品目録二(博物之部)』が存在したが,その時には55種の記録が示されている。邦雄氏らが調査を開始して以来,約45年を経て約150種の陸産貝類が確認された。刊行された本書をみていると西氏のカタツムリに対する執念にも似た情熱が伝わってくる。本書では調査地点として2,000ヶ所以上のドットが地図に示されているのを拝見するにつけ,“凄い”と言わざるをえないのである。

本書に対する紹介者の第一印象は,(1)貝殻と生態写真のカラー写真がシャープできれいであること,(2)標本写真と生態写真がうまく配置されていること,(3)解説が簡潔な記述であること,(4)備考欄に種々な情報が散見されること,などである。

本種の構成を眺めてみたい。まず,種の生息状況、大きさ(形,色),巻き数,殻の形態,殻口の状況,臍孔の開閉の状況,蓋(写真による形態),軟体の記述(類書にはない),その他の特徴,国内と県内の分状状況・分布図(ただし希少種については県内の分布図を省略しているところがある),環境省と宮崎県RDB のカテゴリーから構成される。本書では28科150種がリストアップされているが,キセルガイ科貝類が36(亜)種と多いのに驚かされる。その中でも採集された個体数が少ない種類については,例えばハラブトノミギセル類似種Zaptyx sp. cf. ptychocyma,モリサキギセル類似種Megalophaedusa (Aulacophaedusa) sp. A (紹介者はAと思う:湊・室原, 2011) cf. morisakii ,ニチナンギセル(新称)Stereophaedusa sp.,タケノコギセル類似種Stereophaedusa (Mesophaedusa) sp. cf. elongataなどがあって,種名を未決定としていることに注目したい。また,ゴカノショウゴマガイ(安藤仮称),キセルガイモドキ類似種,コガタシロヒメベッコウ,ハナレシタラガイ類似種,ヒラウズマキキビ類似種など多くの検討を要する種類も含まれているから,種数は総計150種に数えられる。なお,ミジンマイマイの種名は現在はcostata (Műller, 1774) からpulchallula (Heude, 1883) に変更されているのに留意したい(湊, 2005)。

何はともあれ,本書の表紙に配置されているサダミマイマイをはじめとする14種のカラー写真を見て,陸産貝類(カタツムリ)の魅力に魅了されることは間違いなさそうであるから,ぜひ本書をお手元に置くことを推奨したい。

引用文献

  • 黒田徳米. 1935. 宮崎県貝類目録. In 宮崎県天覧成績品目録 其二(博物之部). pp. 31-71. 宮崎県.
  • 湊  宏. 2005. 双島(串本町)の陸産貝類,特にミジンマイマイ類の分類について. 南紀生物 47(1) : 37-42.
  • 湊  宏・室原誠司. 2011. 鶴見岳(大分県)から採取されたモリサキギセルの近似種A と他の近似種について. 南紀生物 53(1) : 15-18.

(紹介者:湊  宏)

入手先ウェブサイト(amazonのみで取り扱い):
https://www.amazon.co.jp/宮崎県のカタツムリ-西邦雄-西浩孝/dp/4909271023

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