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多様性保全委員会

貝類採集の際に遵守すべき法規

2023年3月9日

近年、生物の多様性を保全するための条約や法律が、国内外で次々に整備されています。

希少生物の捕獲や殺傷を禁止することで、個体、個体群または種を保全することを目的とした法律には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」と「文化財保護法(天然記念物制度)」があります。開発や森林伐採等の自然改変や採集等の行為を面的に規制する法律には「自然公園法」と「自然環境保全法」があり、水産資源となっている貝類を保護する「水産資源保護法」もあります。さらに、それぞれの法律に対応する条例を定めて、希少生物の保護や種の保存を行っている地方自治体も数多くあります。以下に、こういった法律や条例などの法規の概要をまとめておきますので、それを理解し、遵守した上で、貝類の採集を行いましょう。

なお、こういった法規で指定される種や地域は、原則として、毎年、追加・拡大・削除などの変更が行われます。また、調査・採集が規制されていても、研究・教育の目的で許可を得れば可能となる場合もあります。したがって、採集や調査に出かける前に、各法規を所管する官公庁の該当するHP(リンク集に掲載)で、指定内容とその変更点、許可申請の必要性等を調べておきましょう。

1.法律

(1)絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)

環境省所管の法律で、保存すべき種を「国内希少野生動植物種」という名称で指定し、採集、殺傷、損傷、販売や頒布のための陳列や広告、譲渡し、輸出入を禁止しています。貝類では、2023年3月現在、2種の二枚貝と48種の陸産貝類が指定されています(表1)。ただし、二枚貝の2種は、販売・頒布を目的とした捕獲・陳列・広告・譲渡だけが禁止される「特定第二種国内希少野生動植物種」として指定されています。また、陸貝48種のうちの20種は保護増殖事業の対象となっており、個体の繁殖を促進して個体数を回復させる目的で、室内等で増殖が試みられています。

なお、この法律では、各種の生息場所での開発行為等を規制する「生息地等保護区」を設定できることになっていますが、貝類でこの保護区が設定されている種は、まだありません。

(2)文化財保護法(天然記念物制度)

日本の歴史や文化と深い関わりのある生物や地質鉱物も、後世に残すべき貴重な「文化財」であるとの見識から、特別天然記念物と天然記念物を指定して、その捕獲、伐採、現状変更等を禁止する法律で、文化庁の所管です。軟体動物では3件が国指定の特別天然記念物または天然記念物に指定されています(表2)。また、保護すべき天然記念物に富んだ一定の区域を定めて、現状の変更や保存に影響を及ぼす行為(立ち入りや採集等)を制限している「天然保護区域」も23ヶ所で指定されています(表3)。対象が軟体動物以外であっても、指定エリアへの立ち入りや軟体動物の採集が現状変更に該当し禁止されている場合があるため、都道府県または市町村等の教育委員会(文化財保護担当部署)にご確認ください。

(3)自然公園法

環境省所管の法律で、国立公園、国定公園、都道府県立自然公園という自然公園の場所とその中での禁止行為を指定することで、優れた自然の風景地を保護・活用し、生態系の多様性や生物の多様性の確保にも寄与しようとするものです。それぞれの自然公園の中も、保護の重要度に応じて5つの区分があり、特別保護地区では全ての動物の捕獲、殺傷、損傷が禁止されています。第一種・第二種・第三種特別地域と海域公園地区では、環境大臣が指定した種について同様の行為が規制されており、現在、5つの国立公園の海域公園地区(図1〜5)と7つの国定公園の海域公園地区(図6〜12)で表4表5のような種が指定されています。これらの海域公園の面積は150ha未満の狭いものが多いのですが、数カ所に分かれているものもありますので、その位置は「5.貝類の採集が規制されている国立公園・国定公園の海域公園地区」の図1〜12を参照してください。また、自然公園に採集に出かける時には、各公園の地種区分を確認してください(国立公園の地種区分はリンク集の「各国立公園の地種区分」を、国定公園と都道府県立自然公園については各都道府県の自然公園担当部署(表10)に問い合わせてください)。

(4)自然環境保全法

これも環境省所管の法律で、「原生自然環境保全地域」や「自然環境保全地域」などを定め、その中での禁止行為を指定することで、生物多様性の確保や自然環境の適正な保全を推進するものです。原生自然環境保全地域では全ての動物の捕獲、殺傷、損傷が禁止され、自然環境保全地域のうち「海域特別地区」では環境大臣が指定した動植物の同様の行為が禁止されています。

(5)漁業法・水産資源保護法

いずれも水産庁所管の法律です。漁業法には、漁業生産力を高める等の目的で沿岸域に共同漁業権を設定し、各地域の漁業協同組合がそれを管理することなどが定められています。共同漁業権が設定された魚介類や藻類は、その組合員(漁業者)以外の者が採捕することはできません(ただし、研究目的であれば、特別採捕許可を知事に申請し、許可されれば可能です)。この漁業権の対象となる種類は漁業協同組合ごとに設定されています。貝類では、アワビ類、サザエ類、シジミ類、アサリ、ハマグリ類が多いのですが、バテイラ、クボガイ、クマノコガイ等が設定されている場所もあります。採集場所が海岸や大きな河川湖沼であれば、当該地域にある漁業協同組合に問い合わせてみましょう。

水産資源保護法には、水産資源の保護培養のため省令や規則等で定められた特定の水産動植物を保護水面等の中で採捕してはならないことなどが定められています。その種類、場所、期間等の規制内容も全国一律のものではなく、都道府県ごとの漁業調整規則に定められています。例えば、沖縄県では、石垣島にある川平保護水面では魚類、タコ類、イカ類及びヒトエグサ以外の水産動植物の採捕が、名蔵保護水面では全ての水産動植物の採捕が、周年、禁止されています。また、八重山諸島にある6カ所の産卵場保護区では、旧暦の3月〜4月の間は、全ての水産動植物の採捕が禁止されています。リンク集の「水産庁:遊漁の部屋」には、都道府県ごと、水域ごとに定められた遊漁(非漁業者による釣りや貝類・藻類の採集)のルールやマナーが示されたHPへのリンクが張られています。そこから多くの都道府県の漁業調整規則も閲覧できます。

(6)植物防疫法と外来生物法

外来種は、近縁種との交雑や競合、捕食などの作用によって在来種を圧迫し、在来の生物多様性の大きな脅威となっています。農業や水産業、エネルギー産業等に大きな経済的損害を発生させることもあります。そのため、植物防疫法や外来生物法(正式名称は特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 )によって、多くの外来種の輸入や運搬、飼育が禁止されています。植物防疫法では、16種の貝類が、有用植物を食害する可能性があるために有害動物として指定されています。それ以外にも、食害の恐れがないことが確認されていないために27の科の全種(在来種を除く)が有害動物に指定されて輸入や移動が禁止されています(表6)。

外来生物法では、表7の1属3種が特定外来生物に指定されており、それ以外にも6つの科の(原則として)全ての種が、輸入しようとする時には環境大臣に届け出て、輸入可能かどうかの判定と許可を受けなければならない未判定外来生物に指定されています。このような種を輸入、生きたまま運搬、飼育してはいけません。

さらに、法律で規制されてはいないものの、取り扱いには注意が必要とされる外来種が環境省と農林水産省によって「生態系被害防止外来種リスト」に掲載され、公表されています(リンク集)。貝類では特定外来生物を除いた16種がこのリストに入っていますので、利用、生きたままの運搬、飼育等により分布を拡大させることがないよう、注意してください。

2.条例・漁業調整規則

上記のような法律に対応した条例が、都道府県ごと、または市町村ごとに制定されている場合があります。種の保存法に対応したものには、ほとんどの都道府県と一部の市町村で「○○県希少種保護条例」などの名称のものがあり、「○○県希少野生動植物」といった名称で捕獲・採集・伐採が禁止された種が指定されています。貝類では、表8のような種が指定されています。文化財保護法に対応した条例(○○県文化財保護条例等)も全ての都道府県とほとんどの市町村で制定されており、現在、表9の11件が県指定または市町村指定の天然記念物となっています。水産資源保護法に対応した都道府県ごとの漁業調整規則は前記の通りです。

なお、こういった自治体指定種も、自治体全域で採集が禁止されている場合も、指定地域だけで禁止されている場合もあり、それが種ごとに異なっている場合もありますので、採集・調査の前に事前に確認してください。

3.研究・教育目的での採集許可の申請

以上のような法規で採集を禁止されている種や場所について、学術研究や教育の目的でやむを得ず採集する場合には、関係官庁に申請を行って許可を受ける必要があります。法律や条例によって申請先と申請方法は異なり、許可が得られる場合でも申請から2ヶ月程度はかかりますので、必ず、早めに申請をして事前に許可を得てください。

  • ・種の保存法(国内希少野生動植物種等の捕獲等許可):該当地域の環境省地方環境事務所または自然保護官事務所
  • ・希少野生動植物等保護条例:該当自治体の自然保護課等担当部署(表10
  • ・文化財保護法(現状変更届):該当自治体の教育委員会等文化財保護担当
  • ・自然公園法(特別地域(特別保護区)内動物の捕獲許可):該当地域の環境省地方環境事務所または自然保護官事務所
  • ・自然環境保全法(自然環境保全地域特別地区内における行為の許可):該当地域の環境省自然保護官事務所
  • ・水産資源保護法(特別採捕許可):該当する都道府県の水産課等担当部署

4.生物多様性条約

1993(平成11)年にこの条約が発行して以降、遺伝資源である生物の国外への持ち出しを規制する国内法を制定する締約国が急増しており、現在、約100ヶ国に達しています。各国に生息する生物は、その国が持つ貴重な遺伝的資源であるため、その利用から生ずる利益を公正かつ衡平に配分する(ABS: Access to genetic resources and Benefit-Sharing) ために、原則として、締約国の許可なく、生物を国外へ持ち出してはならないとする法律が多くの国々で施行されています。海外に出掛ける際には、環境省が公表しているABS指針等を参考にして事前に情報を入手し、その国の法律を遵守してください。

(註)表1、表4~表8の腹足類の分類体系は、Bouchet, P., Rocroi, J.-P., Hausdorf, B., Kaim, A., Kano, Y., Nützel, A., Parkhaev, P., Schrödl, M. & Strong, E.E. 2017. Revised Classification, Nomenclator and Typification of Gastropod and Monoplacophoran Families. Malacologia, 61: 1–526. に基づく。

5.貝類の採集が規制されている国立公園・国定公園の海域公園地区

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