豊橋市自然史博物館第28回特別企画展展示解説書
「はてな?なるほど!ザ・カタツムリ」
2020年2月10日
豊橋市自然史博物館第28回特別企画展展示解説書
「はてな?なるほど!ザ・カタツムリ」
豊橋市自然史博物館 編
今年は,全国の博物館で“軟体動物”を素材とする企画展が多く開催されているが,私が把握しただけでも,以下の諸博物館で開催された。(1) 和歌山県立自然博物館「追悼展・小山安生氏収集 貝類コレクション」(平成25年6月22日~平成26年3月31日),(2) 飯田市美術博物館「寄贈記念企画展 なんでもかんでもカタツムリ — 飯島國昭コレクション —」(平成25年6月29日~9月1日),(3) 国立科学博物館「特別展 深海」(平成25年7月6日~10月6日),(4) 豊橋市自然史博物館「第28回特別企画展 はてな? なるほど! ザ・カタツムリ」(平成25年7月12日~9月1日),(5) 大阪市立自然史博物館「第44回特別展 いきものいっぱい 大阪湾 — フナムシからクジラまで —」 。
その中から,豊橋市自然史博物館の特別企画展「はてな?なるほど!ザ・カタツムリ」の展示解説書を紹介してみたい。これまでにカタツムリだけを展示した企画展はそう多くはなく,貝類展の中に「陸にすむ貝(カタツムリ)」として取り上げられるほどで,ボリーム的には小さかった。しかし,この度の豊橋市自然史博物館の特別企画展は「カタツムリ」をめぐるすべてに焦点をあてて展示し,その展示解説書がこれまでの類書に比較して,「最高峰」ではないかと思う。総数61ページながら,その内容が多義にわたり,カラー写真を惜しみなく駆使して,含蓄に富む知見に満ち溢れているからである。
展示解説書は大きく,6章から構成されている。まず,I章. カタツムリとは?,II章. 生態のヒミツ,III章. 多様なカタツムリの世界 ~世界のカタツムリ,日本のカタツムリ~,IV章. 進化のふしぎ,V章. カタツムリを調べてみよう,VI章. 人とくらしとカタツムリ。中でも第Ⅲ章は本書の中核をなしていて31ページを掲載にあてている。世界の代表種(39種)や日本の固有種(特にマイマイ属41種(亜種)をカラーで図示していることは見ていて楽しく,まさに本書の圧巻だ。また,絶滅の危機に瀕したカタツムリ(カナマルマイマイなど4種),石灰岩地のカタツムリ(イシカワギセル,ナカムラギセル,ミカドギセル,ケショウマイマイ),南の島(南西諸島)のカタツムリ(島嶼ごとの種分化),小笠原諸島のカタツムリ(諸島で適応放散したカタマイマイ属の分化)などのように,日本の陸産貝類のアウトラインが簡潔にまとめられていて有益である。さらに,豊橋市とその周辺のカタツムリの調査(2012年)結果のデータ,豊橋市の石灰岩地である石巻山と嵩山(スセ)の固有種(オモイガケナマイマイ,クビナガギセル,ミカワマイマイ,イシマキゴマガイ,イシマキシロマイマイ)などがカラー写真で図示されている。第IV章はカタツムリに関しての最近の研究成果(例えば,(1) 同じ種類なのに色帯が違うのはなぜ?,(2) 殻色と色帯の遺伝,(3) 殻の形の著しい種内変異(北海度のヒメマイマイ),(4) 1つの遺伝子で種が分かれた?,(5) 交尾できなかったら,逆巻きは子孫が残せないのでは?,(6) ヘビが左巻きのカタツムリを進化させたって本当?,(7)イッシキマイマイのイワサキセダカヘビ対策 など),がコンパクトに紹介されていることも本書の大きな特徴である。第VI章は,(1)カタツムリの利用(食材,民間薬,製品(外壁材,化粧品),(2)害虫としてカタツムリ,(3)民間信仰,(4) カルタ・双六・絵本のなかのカタツムリ,など人との関わりを探っている。最後の引用文献も本企画展のためによく渉猟されていて,今後において類似の企画展を行うにあたり必読の書である。なにはともあれ,陸産貝類大好き人間にとっても大変有益な展示解説書である。本書の執筆は,学芸員・西 浩孝氏と館長・松岡敬二氏が担当された。
(紹介者:湊 宏)
発行者ウェブサイト:
http://www.toyohaku.gr.jp/sizensi/01news/h25/20130712katatsumuri-zuroku.html