カタツムリの謎
2020年2月10日
カタツムリの謎
野島智司 著(誠文堂新光社)
2015年の夏はカタツムリに関する本の出版が相次ぎ,本書に次いで7月には「カタツムリ ハンドブック」も刊行されたのであたり年である。本書はこの出版社の“生き物の謎にせまる本”シリーズの一環として企画された。「カタツムリ」を多角的見地からフォーカスし,5章から構成されている。本書の副題は「日本になんと800種!コンクリートをかじって栄養補給!?」である。第1章は,「カタツムリとはどんな生き物?」という表題で,入門的に日本のカタツムリの概要を説明している。本章には日本の代表的なマイマイ属の分布図(pp. 34-35)があるが,左巻きの種類(ヒダリマキマイマイなど)が割愛されていることに気付いた。本属には右巻き,左巻きの種類があって,左巻きの種は右巻きの種の1つの遺伝子による突然変異で出現したとする研究 (Ueshima & Asami, 2003) ,さらに左巻きの種が西日本よりも東日本に多いなどの研究紹介があれば一層良かったのにと感じた。第2章は夜行性,冬眠,夏眠,膜のフタ,食べること,殻の成長と再生,繁殖,歩き方,感覚にしぼって,カタツムリの生態とその不思議さを探っている。第3章は“食うか食われるかの世界”の話だが,専門家でない一般の読者には,大変興味深い内容に満ちている。例えば近年話題になった細(2012) の「右利きのヘビ仮説」をわかりやすく解説しているなど,最近の研究の成果を論文から紹介していることも新鮮だ。第4章は「ヒトとの関わり」として,食糧(養殖),カタツムリの方言 (”蝸牛考”, 柳田, 1980),殻が汚れない秘密などを紹介。最後の第5章では「カタツムリに会いに行こう!」のタイトルのもと,新種発見,絶滅の危機にあるカタツムリ(レッドデータブック),移入動物によるカタツムリの減少などを解説している。最後は著者が薦めたいカタツムリの書籍7点と4人の研究者のウェブサイトを紹介。締めくくりとして“書かれていることが本当かどうか,あるいはさらなる新事実を発見できないか,確かめてほしい”と書いている。新しい発見がまたあることを期待したい。
著者は1979年生まれで,熊本県糸島市在住。北海道大学地球環境科学研究科と教育学研究科を修了して,現在は執筆で活動中。
引用文献
- 細 将貴. 2012. フィールドの生物学 ⑥ 右利きのヘビの仮説 追うヘビ,逃げるカタツムリの右と左の共進化. 194pp. 東海大学出版会, 秦野.
- Ueshima, R. & Asami, T. 2003. Single gene speciation by left-right reversal. Nature 425 : 679.
- 柳田國男. 1980. 蝸牛考. 236pp. 岩波書店, 東京.
(紹介者:湊 宏)
出版社ウェブサイト:
https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/19787/