美しすぎる世界の貝
2020年2月10日
美しすぎる世界の貝
黒住耐二 監修・武井哲史 撮影(誠文堂新光社)
研究対象にしている生物の中には,“美しい”と言わせるものが実に多いことか。蝶,甲虫,熱帯魚,貝類など枚挙にいとまがない。巷には“美しすぎる〇〇〇”といわれるものが氾濫している。今回刊行されたのは,貝類の美しさを徹底した撮影とデザイン構成で表現し,“美術書”に仕上げた写真集である。千葉県立中央博物館に収蔵されている多くの貴重な標本からの選定は,撮影者の武井氏と編集を担当された山喜多佐知子氏が行ったとのことである。博物館に勤めている黒住氏がそれを見守りながら,選定された貝類の解説を書いているが,図鑑にはない貝の美しさを堪能させてくれる。多くの貝が掲載された図鑑を見馴れた人には物足りなさを覚えるかもしれないが,ソファーに座りコーヒーを飲みながら眺めていると,普段気が付かなかった発見があるものである。1989年に同館で世界の貝の特別展が開催されたが,その時の図録(千葉県立中央博物館, 1989 ;黒住, 1989) を見ると,今回の企画は同館に収蔵されるようになった「二宮泰三貝類コレクション」が主体になっているようだ。貝の美の極致はタカラガイ類に顕著に表れる。二宮コレクション中の“世界三名宝”(シンセイダカラ,オウサマダカラ,サラサダカラ)と“日本三名宝”(オトメダカラ,ニッポンダカラ,テラマチダカラ)が実に美しい。撮影した武井氏はこれらのタカラガイの撮影の難しさを撮影後記の中で述べている。登場した貝類の中でも,日本産チマキボラに劣らないと思われる奇妙なオーストラリアのタスマニア産冷水性エゾバイ科スクミボラ Kapaia kengahami Ponder, 1982に釘づけられた。陸貝党の紹介者からすれば,世界中の陸産貝類が登場する中で,日本産マイマイ類で最大最美といわれる“クロイワマイマイ”(p. 264) の標本が,もっと火炎彩が表れた美しい個体であって欲しかったと思うのは贅沢であろうか。黒住氏の200種余りの解説は簡潔で要を得ていて,氏による考えが出ているのも興味深い。2,3の種に新称(カワバトガイ,ゴライコウサラガイなど)が提唱されている。読後,改めて表紙のコダママイマイ(キューバ)の写真をみて,その“美しすぎる”カタツムリにうっとりである。
引用文献
- 千葉県立中央博物館. 1989. 世界の貝 - 自然の生みだした意匠-. 86pp. 千葉県立中央博物館, 千葉.
- 黒住耐二. 1989. 特別展 世界の貝 自然が生みだした意匠 - 二宮コレクション -. 中央博物館だより (3):3-5.
(紹介者:湊 宏)
出版社ウェブサイト:
https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/19834/